意見交換掲示板過去発言No.0000-201801-25
岐阜の豚コレラ(3) |
投稿日 2018年9月13日(木)11時35分 投稿者 プロキオン
どうやら件の養豚場では8月のうちから異常豚が確認されていて、熱射病と診断されていた豚もいたとのこと。県も前から異常を把握していたが豚コレラと診断するのに手間どったために不手際が続いたようです。 なぜ、このようなことが起きたかと言えば、26年ぶりの発生ということにつきるようにおもいます。 豚コレラは1800年代から流行が知られていますが、わが国では1969年から生ワクチンに切り替えられ、これが優秀だったからです。 1976年には発生が0となり、これが79年まで続きました。このため、我が国からは撲滅できたのではないかという見方が出てきて、終息宣言を出そうという意見が出てきました。 ところが、1980年に突然再発生しました。この時私は家畜衛生試験場に研修に行っておりましたので、その異様さに出会っています。 異様というのは、発症したそれらの豚において豚コレラ特有の症状を欠いていたからです。 特有の症状を呈さないのにグズグズンと死んでいき、病理解剖しても特異的な病変もあまり 見られませんでした。担当されていた先生の言葉を借りれば「1頭だけ見ていても豚コレラ特有の病変は見られない、4〜5頭を解剖して、やっと従前の1頭分の病変が揃てくる。 県に帰って解剖することがあったら、労を惜しまずに片っ端から解剖しないと見逃しかねない。頭数を集めれば、必ず診断はできるから。」と。 この時に分離されたウイルスは特別に変異したウイルスというのでもなく、継代を重ねるとやがて通常の豚コレラと同じ毒性・同じ病変が確認されるようになりました。 当時は、豚コレラと言えば蛍光抗体(FA)がもっとも迅速な診断方法で即日診断が可能でした。 死んだ豚の扁桃を採材してヘキサンとドライアイスで急速に凍結させます。そしてこれをクリオスタットというー20℃の機械の中でミクロン単位に薄切します。これをプレパラートにとって、豚コレラ抗体を蛍光色素で標識したものと反応させるのです。扁桃にウイルスが存在すれば緑色に光って陽性反応を示してくれるので、迅速かつ間違えることなく豚コレラの確定診断がくだせるわけです。欠点としては技術を要するというところでしょうか。 豚コレラは重大な感染症なので当時は、国がこの標識抗体を製造して各県に常備させていました。 が、接種していたワクチンが優秀だと申し上げましたが、ワクチンの徹底が行きわるとともに再発した豚コレラも終息していき、再び発生をみることがなくなり、平成に入ってからは ついに豚コレラの終息宣言が出されるに至り、ワクチン接種も必要がないとなり、各製造メーカーもワクチン製造から撤退していきました。 (ディーラーに確認したところ、現在も製造認可をもっているのは1社だけだそうです) あれから26年が経過し、この疾病を見たことがある獣医師はそのほとんどが退職してしまっていますし、下っ端のころに見たことがあるという人もおそらく現場にはいないでしょう。そういう中での発生ですから、戸惑うこともあるでしょうし、確定診断に慎重をきしたのかもしれません。 それでも法廷伝染病の初期対応としては、いささか杜撰でした。 FA用の標識抗体も流通していないように思いますし、ワクチンもはたして、どのくらい備蓄してあるのかも分かりません。かかる状況においては、どれだけ迅速的確にウイルスを封じ込むことができるのかにかかっていますが、そこが残念な点です。 製造認可を持っているメーカーにとってはワクチン製造が急務となります、ちょっとした特需になるかもしれませんね。
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