獣医師広報板ニュース

災害と動物掲示板過去発言No.0700-201104-5

被災地から動物を連れ去らないで(とくに原発周辺)
投稿日 2011年4月2日(土)12時06分 投稿者 プロキオン

長文ですが、ぜひ最後までお読み下さい。

今、さまざまな愛護団体がそれぞれの目的で、被災地へ入って動物を保護し、被災地の外へ連れ帰ろうとしています。
けれども、この動物達は不用な動物として遺棄されたわけではありません。避難が緊急であって飼い主さんがいっしょに避難する事ができなかったのにすぎません。飼い主さんのもとへ帰って、一緒に暮らす権利を持っていると言ってもよいのではないでしょうか。
飼い主さんのもとへ帰すことが前提の保護でないとなりません。
そのためには、保健所や行政へ「どこの誰が、どこでどのような動物を保護した。連絡先はここです。」が徹底して報告されていなくてはなりません。
そもそもが、被災者である飼い主さんが自分の動物を探す際に、捜索の手段がどうしても限られてしまっているわけですから、できる限り、犬でも猫でも御自分の目で見て確認できることが必要です。そういう主旨から現地で救護や保護にあたっている獣医師さん達も遠隔地での保護よりも、被災地でのレスキュー施設が望ましいと考えており、施設の立ち上げを急いでいます。
しかし、現地から届く声では、放浪している犬は、むしろ減ってきてしまっているというものがありました。レスキュー施設ができても、飼い主さんが探して歩く事が出来る範囲に肝心の犬が遠方に連れて行かれて、いなくなってしまっていたら、どうなのでしょうか?
保健所や保護施設に連絡が届いていなかったら、探す手立てがありません。
今、外部に連れて行かれた動物達を、被災地に戻せとは申しませんが、自治体の関係部署や保健所には、絶対に連絡を入れていただかなくてはなりません。

また、今現在では、福島第一原子力発電所周辺にこそ、取り残された動物達が多いわけになるのですが、ここでこそ、連れ去らないで欲しい。
発電所に由来する放射性同位元素は、風向きによって、どちらに飛散しているとは限定できません。避難指示が出ている地域であれば、動物達も被ばくしている可能性を否定することはできません。むろん、直ちに健康に害が生じるという放射線量ではないと思います。が、しかし、動物の場合は自分の体を舐めるという習性があります。外部被ばくでは問題とならない線量でも内部被ばくになってしまっている可能性も考慮しなくてはなりません。こちらであれば、5年とか10年先には、必ずしも健康が保証できるわけではありません。ただ、それはその動物の個体としての健康被害に留まるはずなのです。

にもかかわらず、遠隔地へ連れて行かれてしまうと、少し話は違ってきます。体に付着した放射性同位元素を洗い流そうとすれば、その放射性同位元素を保護した団体の周囲の環境に放出することになります。洗浄するのであれば、被災地の現場で実施していただかないとなりませんが、現場にそのような充分な水はありません。除染できた事を確認する放射線測定器がないのですから、安全であるという確認ができません。

腫瘍の診断でPETと呼ばれる検査が、逐次広がっていることは耳にされているでしょう。これは、「陽電子放射断層撮影」のことであって、フッ素18が陽電子を放射することを利用していますが、この検査を受ける際には放射性同元素が受診者に投薬されます。この場合は、人間であろうが犬であろうが投薬以後は、病院内に設定された「放射線管理区域」から外へ出る事は許されません。本人はもとより、便や尿などの排泄物も外部には出す事は許されません。投薬された放射性同位元素が半減期を過ぎて、安全な線量となってから、初めて管理区域から外へ出て帰宅することが認められるのです。それが放射線の管理であって、日常生活との齟齬が生じないように努めているのです。
また、極めて短い半減期の放射性同位元素を選択することによって、受診者の不便を軽減するように図っているのですが、基本的には何も知らない・承知していない人々に放射線障害を引き起こさないことに目的があります。

ここまで言えば理解していただけると思いますが、放射線量を測定して、放射線管理区域を設定し、そこから外部に何も排出させないという管理ができない者が、放射性同位元素を取り扱ってはならないのです。放射性同位元素が付着していれば、人間であろうと動物であろうと、「放射線障害防止法」に規定された取り扱いを遵守しなくてはなりません。だからこそ、福島沖の海の遺体の収容が遅れているのです。法律を守り、現場で働く人間を守ろうとすれば、そうならざるをえないのです。

原発周辺をさまよっている犬達をかってに連れ去ってはなりません。おそらくは、健康に支障がない線量なのでしょうけれども、そのことがもつ意味はそれだけでは済みません。
放射性同位元素が微量であっても、遠隔地に飛散させてしまうことが1点。
もう1点が、風評被害の元凶となる可能性があるからです。元の飼い主さんが引き取りに来る事ができなかった場合の事です。それらの動物達は、あらたな飼い主さんを探す活動に切り替えなくてはなりませんが、そのときに、あらたな活動の足枷となってしまいかねないのです。犬も猫も自分ではしゃべることができません。原発周辺で保護された動物ではないかと疑念をもたれた時点で、他の被災地の動物であっても、新しい飼い主さんがためらってしまわないでしょうか?
今、報道されている限りでは、人間であっても被災地が福島というだけで問題が生じている状態です。保護した後、どのようにして世話をしていくか、その後来るであろう飼い主さん探しにどのような展望をもっているのか、今は、思慮の無い活動をしてはならないのです。
1頭でも多く飼い主さんのもとへ帰したい、飼い主さんが迎えに来ることができない動物には、新たな飼い主さんのもとへ送り届けたいと考えれば考えるほど、深謀遠慮が求められるのです。無計画な行き当たりバッタリの活動では、決して動物達を救う事にはつながらないのです。また、そのような無責任な愛護団体に動物を託してはいけないのです。
このようなときだからこそ、団体の真贋を問わなくてはならないのです。

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