獣医師広報板ニュース

災害と動物掲示板過去発言No.0700-201110-31

Re4:福島での殺処分の牛について
投稿日 2011年10月17日(月)17時19分 投稿者 プロキオン

日本獣医師会雑誌の10月号に宮崎県の口蹄疫における殺処分に従事したK獣医師の手記が掲載されています。本来であれば、掲載許諾をもとめてから掲載するべきところですが、日本獣医師会のサイトにおいて、獣医師会雑誌の記事は逐次公開されておりますので、時期を逸することがないように掲載しようと思います。記事内容は一部の抜粋です。

薬殺に携わった獣医師の現場からの声です、耳を傾けるべきではないでしょうか。

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「口蹄疫が残したもの」
( 前略 )

 私自身、5月20日から6月30日まで牛の殺処分に従事し、地元の家畜の命を絶ち続けた。多いときでは1日で約200頭の命を自身の手で絶った。農場に出向くと、泣き崩れる生産者やその家族、牛舎に供えられた花束やお神酒。殺されることを察したかのように、ジッとこちらを見る牛たち。日頃からお世話になっている生産者の大切な財産を……、一方で国内の畜産を守るためと複雑な心境の毎日で正常な精神状態を保つのが大変だった。
 ある日私が1ヶ月前に難産で往診した農場へ配属された。その生産者は、最初から最後まで殺処分の作業を手伝ってくれた。半分くらい処分が終わった頃繋ぎ場に連れてこられた親子の牛を指差して「この子、先生が助けてくれたやつだ。」と言われた。殺処分に従事して10日くらい経っていたが、それまで何とか自分に「仕事」と言い聞かせて淡々とやってきた。しかし、この時ばかりは、頭が真っ白になりどうしようもなく涙が溢れてきた。「先生! うちの牛たちは最後まで先生のお世話になってよかったと思う!」、涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした畜主に声をかけてもらった。気持ちを落ち着かせ残りの作業を終えた。
牛舎の横の大きな穴に親子が隣り合わせに(親牛が子牛を抱き寄せるように)並べられていた。重機オペレーターのちょっとした気遣いだった。生産者が土を盛る前にお神酒を濯ぎ入れ 声を掛け合うわけでもなく作業者全員が手を合わせ黙祷した。こんな光景の毎日でいくら処分がはかどうろうとも充実感はまったくなく、疲労感と虚しさだけだった。
 
 記録に残さずとも1年が経つ今も、1件1件の農場であったことを鮮明に記憶している。この記憶は私の体中の細胞に刻み込まれ、生涯記憶から消し去ることのできない悪夢のような事実である。

(中略)

 当然、再開した農家も同じような不安を抱えたままの再出発であり、苦しんでいる。さらに産業動物を診る我々も再開が進まなければ生活を維持するだけの収入が得られない。あまり公にされていないが殺処分、終息後の生活や収入の不安からなどから生産者・獣医師共に健康や精神的に病んでいる者も少なくない。

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