獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200104-13

視点が異なるということに意味があります
投稿日 2001年4月2日(月)18時01分 プロキオン

>管理者及びスタッフへ
大変長文になってしまいましたが、私としてはかなり大事なことを書いたつもり
なので、できるかぎり掲載してくださるようお願いします。


4月1日の TRさんへ
この掲示板の名称は「意見交換」であり、健康相談でも疾病診断でもありませ
ん。動物を飼育している飼い主さんと獣医師との間で疑問に感じていることを
率直に意見を交わすことに目的があります。
つまり、異なる視点からの意見(異見)を聞くところにあると言えます。その
意味では本来の意図に沿った形になっていると受け止めています。

さて、本題なのですが、飼い主不在の診察についてですが、これはどちらかと
言えば、P0MRシステムをとっている病院に多いように感じています(私の
まったくの独善ですが)。ただ、このシステムと言えども飼い主からの「りん
告」を抜きにはありえません。飼い主からの聞き取りを元に検査方針をきめて
行くわけですし、バカにしているのでもなければ、ないがしろにしているわけ
でもありません。できうる限り客観的にデータを評価するということなのです。
。現在の症状が特定の人物に対して気を引こうとして発現しているものか、あ
るいは、より大袈裟にふるまっているとかです。こういう場合は、飼い主の存
在は文字どうり障害になります。
私が前回書いたようなことは、むしろ思いあたる方が多いはずです。
別に診察室の中で、飼い主のいないところで、犬や猫をなぐったり、蹴飛ばし
たりするのが目的ではありません。

注射するところを見ていられないという人は案外多く存在します。こちらは御
愛嬌です。自ら進んで退室されます。困るのは、金切り声をあげたり、騒ぎ立
てて採血もさせてくれない人です。その検査はいくら、この注射はいくらとい
ちいち尋ねて診療を先へ進めさせてくれない人もいます。
データハウス社の本に「私は動物のお医者さん」という本があります。この本
は動物病院や獣医師の裏の事情を書き過ぎていて、ちょっと睨まれていますが、
この本の著者においてさえも、「イヤなクライアント」という項目を起こして
います。一般に多くの飼い主さん方が読まれる本を執筆されている獣医師もお
りますが、そのような本においても、病院と飼い主の望ましいあり方として記
載されている部分をよく目にします。これはストレートに言っていないだけで、
獣医師や病院を困らせてくれる飼い主がかくも多いということを物語っていま
す。

「あなたは、じゃまだから外へ出ていて下さい」は面と向かってはなかなか言
えるものではありません。また、診察の途中でいうのはかなりの失礼にあたり
ます。それなら、最初から皆に平等に診察室の外で待っていて貰う方がよっぽ
どましなのです。

そして、これも今言った本に記載されている内容ですが、
パルボウイルスが町内で流行した際に、他の良心的な獣医師は入院を拒んだが
自分はどんどん受け入れたので、1年分の収入を稼いでしまったという話が載
っています。当然のごとく院内感染が発生し、大変なことになったのですが、
自分は飼い主から見て逆に良心的な獣医師と思われていたので、別のペットサ
ロンが犯人と疑われて潰れてしまったとあります。

私の病院は待ち合い室から診察室が素どうしで、中での会話も診療の様子もま
る見えです。私はこれを困ったことだと考えています。感者のプライバシーが
損なわれているからです。
私の病院でもジステンパーが出ます。診察するまでそのことは分かりませんか
ら、狭い待ち合い室で患者同士が接触してしまいます。そして、患者の飼い主
さんにその場で病名を伝えにくい現象が起きます。待ち合い室でまっている他
の飼い主さんにまで分かってしまうからです。したがって、本来必要な説明も
注意も充分にはできないのです。帰宅時間を見計らって、電話するか、再度来
院してもらうかになってしまうのです。
これは、なにもジステンパーやパルボ等の伝染病に限った話ではありません。
猫のエイズや白血病でも診断を聞いて泣き出される飼い主さんがいます。腫瘍
についてもしかりです。これらの疾病でなくても、闘病していた動物が亡くな
って泣き崩れてしまう方も多く存在します。このような人達にも周囲を気にせ
ずに泣くことができるスペースは確保してあげたいと思っています。今の私の
病院では、それはできません。
だから、私は中の様子が待ち合い室から分からない診察室が欲しいと考えてい
ます。

気を悪くされたら申し訳ないのですが、昨日のTRさんの書き込みを拝見する
と獣医師が何をするかわからないので監視していたいというように受け取れて
しまうのですが。
動物病院が儲けようと思えば、飼い主が目の前にいようと、いくらでも金はか
けられます。まず、検査内容が妥当であるかもあるし、使用する薬品の種類や
原価も知らなくてはなりません。なにより動物とその病気を知らなくてはなり
ません。診療している獣医師を上回る知識をもたないとおそらく無理なのでは
ないでしょうか?
また、知識といっても昨日今日の俄勉強では役に立たないと思われます。ぐっ
ちょんさんの書き込みに対して、「インフォームドコンセント」の必要性を述
べておられましたが、この言葉もあまり患者や飼い主さんのためにあるとは言
いがたいと考えています。
「事前の説明や同意」が、この言葉の以前にはなかったのでしょうか? そん
なことはありません。では何故といえば、トラブル回避の他にありません。医
者や獣医師がこのことば勧めるのは、その恩恵があるからです。

私は開業当初、やってくる飼い主さんに状況を説明してどういう治療を選択す
るかをせまりました。皆さん一様に困ってしまうのです。私はできるだけ正確
に説明するようにしていたのですが、これがそもそも間違いだったのです。必
要なのは正確さではなく、理解できる程度の内容であることなのです。治療方
針の決定などは、さらに先の話なのです。
これは先輩獣医師に相談して、無理な注文をつけるなと言われましたね。必要
な処置が選択できるように誘導してあげるまでしなくては不親切だとも言われ
ました。これは、決して飼い主をバカにしているのではありません。
例えば、肝臓移植を例に取ると、患者本人といえどもいつオペに踏み切るかの
決断はできません。移植が必要か否かの判断もできかねるでしょう。これが、
幼児における肝不全で、臓器が手に入らないからと言われれば、親が提供を申
し出ることになるでしょう。これらの説明は当然インフォームドコンセントに
沿って実施されますが、主導権が医者にあることは否定できません。患者には
同意するか否かがあるだけです。つまり、納得したつもりになって責任を負う
ことになりかねないのです。
医者と患者が対等の立場にないかぎり、この言葉は医療を施す側にとっての免
罪符にしかならないのではないかと危惧するのです。

我々獣医師においても、それは同様であり、面倒なことトラブルの恐れがある
ことに対して 説明はしたけれども同意が得られていないので、手を出さない
ということが起きてくるのではないのでしょうか?

事実そういうことはあるのです。何回も帝王切開をくり返しているポメラニア
ンが子宮蓄膿症に罹って、私のところへくるまで、2件の病院に手術を断られ
ていたことがあります。その中の1件は帝王切開をくり返した病院です。私は
手術が嫌いですから、当然断りたかったのですが、手術も受けさせることもで
きなくて死なせてしまうのはあまりに悔しいとのことでした。まあ、私の退路
が断たれてしまったわけです。開腹してみると思ったとうり、腹膜や消化管、
子宮や膀胱の癒着がひどく手の罹る手術になりました。でも、ここで引受手が
なければ確かにそのまま死亡したであろうという判断はできていた訳だし、飼
い主さんの言い分も理解できました。自らの頭で考え、自ら伝える意志が飼い
主さんにあったとからこそ、私も手術を引き受けることができたのです。

大切なのは必要な時に必要な判断と処置ができることであり、その行為が制限
されることは不本意なことと言えます。
インフォームドコンセントという言葉が医療を行う者の責任を追求するための
言葉であってはないらないし、また医療を行う者の免罪符であってもならない
のです。
両者が対立する構図自体があってはならないのです。しかし、現実には そう
いう事態がしばしばあります。それはこの掲示板においてもしかりです。
確かに問題のある獣医師は、それ相当の数存在しているはずです。私もそれを
否定しません。存在すればこそ、私は今まで敢てそのような書き込みに対して
レスを書いてきた経緯があるのです。
獣医師と飼い主は対立するべきではないのです。不満や不安を「獣医師」とい
う代名詞にかぶせて欲しくないのです。理由があることには理由を、興奮して
いる人には深呼吸をして欲しいのです。
信頼できない病院へ通う必要はありません。事前の説明もあって当然です。
しかし、全ての獣医師に対して、何をするかわからないという目でみられたの
では困ります。それは逆に獣医療の放棄です。
私は上記で困った飼い主さんの存在に触れていますが、それでも初めて来院さ
れた方は、まず信用することから始めています。飼い主さんにも同じことを希
望しているのですが、それは獣医師側の過ぎた望みなのでしょうか?



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