獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200312-197

ごまさんへ
投稿日 2003年12月25日(木)03時17分 パールちゃん

ショックだったでしょうね。
「どうして?」「なぜ?」という言葉が頭の中に渦巻いていることでしょうね。
はたのさんから具体的なアドバイスがありましたが、私は私の経験を書いてみます。

以前、私は9歳9ヶ月の愛犬を病気で失いました。
あとでわかったことですが肺に水がたまる病気でした。
肺に充分に空気を取り入れられないため、犬は口を開けて浅くて早い呼吸になりました。
横になるとますます息が苦しく、やがて犬はけして横にならなくなりました。
ずっとおすわりの姿勢のままハッハッハッハッという呼吸を続けていました。
横にならないのでおすわりのままウトウトと眠る日々でした。
息が苦しいし、おすわりの姿勢ではちゃんと眠ることはできません。
ウトウトしながら体がユラユラと揺れて倒れそうになるので、
2つのクッションで犬をはさみ、片側は壁にもたれさせ、反対側は私が押さえて固定し、
少しでも体を安定させて目をつむれるようにしました。
ちゃんと眠れなくなってからの日々、名前を呼べば目を合わせるのですが、
すぐにまたうつろな視線に戻ってしまいました。
それでもヨロヨロと自分で歩いて庭で排泄をし、スープのような液状のものなら少しは舐めるくらいの力はありました。
やがて、呼吸の苦しさと眠気で意識が混濁するようになり、何も口にしなくなったため、
病院に半日入院して水分と栄養の点滴を受けました。
家に連れ帰って数時間後、用事をしていた私の足元に犬がきて私を見上げました。
じっと私の目を見る犬の目はうつろではなく、はっきりと意思をもった目でした。
数秒間目を合わせたあと、犬はゆっくり崩れ落ちるように倒れて息を引き取りました。
呼吸がおかしいなと気づいてから約3ヶ月。最後の1ヶ月はおすわりの姿勢でウトウトするだけだった犬が、
やっと横になってゆっくり眠れるときがきました。
「よくがんばったね、いい子だね、これでゆっくり眠れるね」と、私は心の底から犬を誉めました。

発病してからの3ヶ月間、どんなに苦しかったことかと思います。
でも私は一度も安楽死を考えませんでした。
途中何度も病院に連れていき、また往診もしてもらいましたが、
かかりつけの獣医さんも一度も安楽死という言葉を出しませんでした。
苦しいだろうけれど病気と闘い抜くことがこの子が生きている証、生きてきた証。
最後までがんばらせてあげようという共通の思いが私と獣医さんの間にありました。
安楽死を選ぶ飼い主さんを責めるつもりはありません。
ただ私には、犬は自分から「もう死にたい」とはけして思わないだろうという思いが強くあります。
どんなに苦しくてもどんなに痛くても犬はそれに耐えて闘おうとします。
やがて命の灯が消えても、その結果は負けではありません。
生まれて、私の元へきて、楽しい日々を過ごした犬です。
最期の瞬間を選ぶのは私ではなく犬自身に決めさせたい、それが私がしてあげられる犬への感謝です。

すべてあるがままに、すべて受け入れて、残された限りある時間を過ごす。
1匹1匹の子にその子らしい最期のときがあるはずです。
かわいがられてきた犬はどうしてほしいかを必ず人に伝えてきます。
ごまさん、犬が何を望んでいるか、心を傾けて聞いてあげてください。
残される者より旅立つ者のほうがずっとつらいのです。
見送る者の悲しみに心とらわれるよりも、旅立つ者が悔いなく過ごせることだけを考えてあげてください。
私からの具体的なアドバイスはただひとつ、入院はさせず住み慣れたおうちで過ごさせてあげてほしいということだけです。
そして最期のときもおうちで。
それがいちばん犬の喜ぶことだと思うのです。

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