獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200607-315

かはらさんへ〜避妊手術〜
投稿日 2006年7月31日(月)03時10分 投稿者 山下 貴史

かはらさんはもうご覧にならないかも(?)しれませんが、今後こちらを参考に避妊を考える皆様へとも思い、再び書かせていただきます。お言葉に甘えたわけではないのですが、また長くなってしまいました…。

<健康な子の麻酔>
以前「909頭に一頭の死亡率の麻酔 高齢になって万が一病気が発見された時 その時の方が危険にならないでしょうか?」というかはらさんの質問がありましたが、答えは「危険になる可能性が高い」でしょう。明らかに違います。獣医師によっては年齢で手術時期を決める方もいらっしゃるとか(それは正しいことではないのですが…)。また、手元に数字がないのですが国内の某大学での発表でも(つまり、麻酔に十分注意していると思われる大学でさえ)、全くの健康な子と他の疾患を有する子との危険率に有意な差がありました。うちは獣医師が僕一人の町医者で年間に麻酔処置を500ほど、週に2〜3人以上の不妊手術(去勢もしくは避妊)を行ないます。下は数百グラムから上は70kg以上の子や短頭種、サイトハウンドまで行ないました。開業してまだ7年ほどですが、どう少なく見積もっても健康な麻酔頭数を909頭は越えてはいて、健康な子での麻酔での死亡の経験は幸いまだ経験しておりません。とはいえ、もちろんどんな麻酔処置もいつでもドキドキしながら行なっています(安全な麻酔はないので)が・・・。逆に、少ないのですが病気を持っている子や高齢での麻酔時の悲しい経験はあります。

<乳腺腫瘍>
犬の場合で乳腺腫瘍になった場合に手術をしたとして、その後の生存期間に関してこのような情報もあります。
・未避妊の場合 198日
・手術の2年以内に避妊してある場合 331日
・手術のはるか前に避妊してある場合 563日
乳腺腫瘍の手術時に未避妊なのとはるか前に避妊してある場合では丸1年の差があります。犬の場合、ヒトの1年が小型犬にとっては4年に値するとも言われますので、ヒトで言うところの4年に値するとも取れます(まぁ…1年は1年ですが)

また、乳腺腫瘍の手術時に「一緒に避妊手術したほうが良い」という」論文と「一緒に避妊手術しても関係ない」とする論文それぞれが出ています。この辺りから現在では「一緒に避妊手術したほうが良いという文献がある以上、取る必要がないとは言い切れないから避妊もする」や「乳腺以外の問題も防止できるから、乳腺腫瘍を取る時に避妊もする」という意見が多いとされています。

なので、早めに見つけたからと言って・・・
1)必ずその子に手術(麻酔)をしてあげられるか分からない。(本人の問題・獣医師のやるやらないの問題も)
2)乳腺腫瘍切除の際にどっちにせよ避妊手術をする可能性が高い
3)2.5歳以上の避妊手術に乳腺腫瘍の予防効果はなくても、術後生存期間に差が生まれる可能性がある
といったことが起こることを考慮しなければなりません。

これは経験話ですが、以前4kgのポメラニアンさんの転院患者さんで当院来院の1か月前には親指の頭程度の腫瘍だったという子が、来院時400gの乳腺腫瘍がついて来たことがありました。この子は19歳でした。しかも肺に転移していて通常ならば残り3ヶ月の命と推察できるものでした。しかし、その乳腺腫瘍は地面についていて、それを重そうに引きずり血を流しながらも明るく振舞う姿に御家族は外科摘出を選択されました。手術は成功し、その子は6ヶ月以上の術後期間をセキと戦いつつも生きてくださいました。これくらい早い成長を見せることもあるのです。
でも、今回避妊しないで早期発見を目指すほうを選択されるならば、犬の場合一番後ろの乳頭にカタマリを見つけることが多くなるかと思いますので参考になれば幸いです。

<子宮蓄膿症>
子宮蓄膿症は発生率が15%ほどという情報もあるくらいの良く見る疾患です。一般に膣側からの感染が多いとされていますが、歯石(歯垢)の菌と相関しているという文献も出ていて、血流に乗った歯周病菌が子宮内膜過形成に定着してしまうこともあるようです。(ちなみに歯石に関して言えば、毎日のブラッシングと定期的な麻酔下での口腔内処置が最低限必要でしょう。)また、皮膚病や膀胱炎などの慢性感染症も細菌を運ぶ可能性があります。

それと…ワンちゃんの場合に発情は死ぬまで続くものであることは前に書きましたが、それは年とともに周期や出血量などに変化を見せるため、よほど丁寧に見ていないと発情自体に気づきづらいです。すると、その後1か月〜2ヶ月の健診も難しくなることもあると思われます。ちなみに一般に正常の子宮は超音波でも精密な確認は難しい(できない)臓器になります。ヒトのような経膣のエコーを使える動物病院もまずないと思います。

避妊しないで様子を見る場合、飲水量の変化は腎機能の低下(尿濃縮機能低下)で認められるようになるので、早期には分かりづらいかも。実際のところ陰部の腫大が継続して見られることは多いので「陰部がずっと大きなままだな・・・」なんてのを目安にしてもいいかもしれません。また、想像妊娠を繰り返す場合は子宮蓄膿症発生率は高くなるといわれています。後は歯石や慢性疾患(皮膚病・膀胱炎など)などに注意してよりよい選択をしてあげてくださいね。

一応・・・今度6歳になる子のほうの避妊をもう一度考えてあげても良いかな?と思い提案したしだいです。

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