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避妊手術〜卵巣摘出か卵巣子宮摘出か〜
投稿日 2006年9月7日(木)01時40分 投稿者 山下 貴史

獣医師の皆様、ご家族の皆様、こんばんは。完全に出遅れました、獣医師の山下と申します。(僕自身は卵巣&子宮摘出を行なっています)議論がいろいろな方面に伸びているのですが、僕からは卵巣摘出か?卵巣-子宮摘出か?についてだけ、少し書いてみます。参考になれば幸いです。

最初に、ご家族の皆様が心配していると思われる(?)卵巣だけを摘出した場合ですが、卵巣の取り残しがなければ(=卵巣から出てくるホルモンがなければ)、子宮は萎縮してしまいます。つまり、卵巣を取り残さない限り、子宮疾患が起こる可能性を特別考慮する必要はないことが分かっています。まずは、これについてご安心ください。
「卵巣のみの摘出の場合、卵巣を取り残したら子宮は萎縮しないから残った子宮に疾患が起こる」というツッコミを入れたくなるかもしれませんが、卵巣の取り残しがあれば卵巣&子宮摘出の場合も断端蓄膿症などもありますので、どちらの手技がいいか?という議論の決定打にはならないでしょう。

それとは別にこのような考え方もあります。

〜若い頃の避妊手術〜
・卵巣だけでも卵巣子宮でも妊娠の防止、子宮蓄膿症の予防、行動学的効果など違いは無い
・ヨーロッパの獣医大学では卵巣だけで教えていることが多い
・日本でも僕の知る大学の臨床繁殖などでは卵巣だけでも大丈夫と教えている(どっちでもいいから、好まれたほうで…ということです)
・しかし、卵巣だけの摘出ではいい加減な手術による取り残しの問題もある
・アメリカの獣医大学では卵巣子宮で教えている。これは若い獣医師が開腹手術をしっかり経験してスキルアップするという意味もあるようです(X先生が最初のほうにおっしゃってた、「理由がちょっと…」というのはこれかなぁ?と思いました)

〜老齢の場合〜
術前の評価の結果、手術ができるのであれば子宮にもすでに問題が起こっている可能性を考え、子宮もとってしまった方が良い

…といった具合です。

また、教科書レベルでは、卵巣と子宮両方を取る事を基本としていますが、教科書というのは少なくとも5年くらい情報が遅いですから、これが全てではないでしょう。また、今の院長クラスの獣医師は(僕も)、大学でほとんど犬猫のことを習っていないはずなので、自分の師匠や学会などで独自に学んだものを繰り返し行なうことで身に付けたものが多く、避妊手術もそのひとつにすぎません。その獣医師に習えば、その弟子も両方取ることは自然な流れのひとつですよね。おそらく…学会などでの新しい情報が好きな先生(とにかく新しいこと好きって人もいます)や、自分自身で考えてどっちがいいか?を決める獣医師ですら、悩んでいる状況だと思われます。

・・・と、取りとめもなく書きましたが、この問題は世界レベルで結論がついていません。どちらでもあまり変わらない…ただし、子宮の状態が悪い可能性のある場合は子宮まで取りましょう…ということくらいしか言えないと思います。

ちなみに、手術の傷と時間ですが…実際のところ熟練すれば、どちらの手技でもあまり変わらないと思います。しかし、これはその先生先生での考えにもよるものが大きく関わります。多分ほとんどの熟練した獣医師は、非発情期の猫さんの避妊手術は「傷5mm程度、手術時間10分以内で卵巣と子宮を取れる」と思います。しかし、通常はそんなギリギリつめてやりません。車の運転のように、余裕を持った手技を行ないます。中にはせっかく開腹するのだから広い範囲で腹腔内を見ておくことも必要と考えたり、もし間違えて出血させた場合に…と大きくゆとりのある切開をする場合もあるでしょう。傷が大きくなれば、避妊手術時間のほとんどは縫合の時間ですから、おのずと手術時間も長くなります。もしくは、それでもできるだけ、小さく…と考えれば、卵巣だけでも十分なわけですから、そちらを選ぶことも正解でしょう。知人の獣医師は卵巣だけの摘出にすれば、値段を安くできる!とおっしゃっていた方もおりました。これもまた、患者さんのご家族のことを思えばこその意見ですよね。

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