獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200704-104

Re:犬ブルセラの人への感染と生殖について
投稿日 2007年4月19日(木)18時53分 投稿者 プロキオン

ヒトブルセラ症については、医師の範疇であり、私達獣医師が言及するのは、いささか越権行為となりますが、成書にはリンパ節炎や精巣炎・子宮炎等の記載があるのではないでしょうか?
ここから先は、越権行為にならないようにブルセラ族の細菌について述べるようにしますが、もっと、具体的にという場合は、人間の医師の方に尋ねるようにしてください。

ブルセラ属の細菌は、Brucella abortus B.melitensis B.suisu B.canis B.neotomae
等が知られています。これらの菌は、いずれも人や固有宿主以外にも相互に起病性を有していることが文献的にも記述されています。
これらのブルセラ族の細菌は、和名では「○○流産菌」というように名づけられていますが、これは、動物を患者とした場合に初期の感染に飼い主が気がつかず、慢性化あるいは重篤化して「流産・死産」という顕著な症状を伴って認識されることがに由来しています。
本来であれば、例えば人間が感染したような場合であれば、おそらく感染初期に局所あるいは全身のリンパ節の腫脹と倦怠感とか発熱というような徴候で感染者自身が異常を認識できると考えられます。動物であれば、これらの症状は見過ごされてきたと考えられます。
ただし、このような非特異的な症状であれば、単に体調不良とか風邪かな?ぐらいのこととして誤解されてしまうかもしれません。もっとも軽症であれば、抗生物質の服用くらいで終わってしまうのかもしれません。
でも、ブルセラ属の細菌のやっかいな点は、それで終わらないことです。この菌の特性として白血球や大喰細胞に捕捉されても、そのまま消化されずに生存していたり、逆に薬剤の作用から逃れたりとして慢性化しやすい点にあります。
全身のリンパ節に局在して、再度の菌血症をおこす機会をねらっていて、やがて泌尿生殖器にも分布するようになります。犬の場合で、避妊去勢を実施すればと考えられるのは、このためなのですが、分布でいけば乳房と乳房リンパ節の方がより高い分布率のようです。家畜におけるブルセラ病が法廷伝染病として見つけしだい法律で殺処分が命じられるのは、持続的に乳汁を介して感染を拡大させる危険があるからです。牛・豚・綿山羊のような動物であれば、繁殖させることができないのであれば、飼育を継続する意味がありませんし、まして乳房の切除まで想定できることではありません。

厚生省が扱う「人ブルセラ症」においては、原因菌は上記のブルセラ族の細菌であって、犬ブルセラ菌もこれに該当します。
では、流産や死産が発生するのかというと、これは定かではありません。まず、B.canisが我が国では近年までいないと考えられていましたので、人間の医師の方でも感染初期の症状を具体的にブルセラと結びつけて考えるということがなかったのではないかと考えられることと、妊娠初期の妊婦さんが流産してもやはり確認のための検査がどの程度実施されていたのかが分からないからです。
これは、B.canis による流産があったということではなく、あったのか、なかったのかが分からないということです。B.canis は人間への起病性はもっとも弱い方の菌とされていますので、かならずしも流産・死産というような状態を想像しなくてもよいのかもしれません。この菌が重要なのは、獣医学辞典にも記載されていますが、「犬流産菌は、ヒトとの関係からも近年注目されている」という点です。
牛・豚・綿山羊等は、「家畜伝染病予防法」に規定されている法定伝染病ですから、これらは逐次処分されてきており、現実的にも人間への感染の機会は極めて限られており、一般からは隔絶されているとも言えます。となると、人間への感染源としては、犬の存在を意識せざるを得ません。それ故、獣医師も飼い主もこの病気について関心を払い、犬のブルセラ病の根絶を考えなくてはならないように思います。
人間だけのことではなく、犬だって、この病気に感染しない方が良いのに決まっていますよね。

# 記述の中に「ブルセラ病」と「ブルセラ症」の記述の混在していますが、農林水産省は「ブルセラ病」であり、厚生省が「ブルセラ症」としているので、それぞれの部分で応じて使用しています。


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