獣医師広報板ニュース

フェレット掲示板過去発言No.1400-200509-47

誤解されている方が多いようなのですが、
投稿日 2005年4月28日(木)16時39分 投稿者 プロキオン

フェレットの副腎疾患について、どうも誤解されている方が多いようで
すが、これは1つの疾病ではありませんよ。
すべてが同じものではなく、「性腺ステロイドの分泌過剰」とハッキリ
と「腺癌」によるものとがありますし、当然、その中間の「副腎の過形
成あるいは、腫瘍的増殖」という段階もあります。

犬における「副腎皮質機能亢進症(所謂クッシング症候群)」であれば
これは皮質のコーチゾン分泌細胞を破壊してやる薬剤(例えばミトタン
)を投与することによって改善の徴候が認められます。
しかし、フェレットの場合は、早期の性腺の破壊消失による副腎の機能
代償が本態であって、エストロゲン、ヒドロキシプロゲステロン、テス
トステロン及びアルドステロン等の分泌過剰に由来しています。
すなわち、人間や犬おけるものとは病態が異なり、同じ治療法はとられ
ません。
性腺ステロイドの分泌過剰なのですから、「持続性のGnRH製剤」を
投与するというのは、理屈からいって、当然すぎる治療です。
人間の医者が、この治療法を「荒唐無稽」と表現したのであれば、それ
は、フェレットの病態を知らないからに他なりません。少し前の方にも
「子宮疾患の薬」というような表現が見られましたが、これも当たり前
のことです。性腺ホルモンを抑制したいのですからね!

副腎疾患というだけで、何もかも一緒に考えていれば、こういう混乱が
生じます。フェレットは犬でもなければ、まして人間でもありません。
獣医師であれば、医師に医学について質問しようとすれば、当然医学書
や文献には目を通していますが、人間の医師は、逆の場合、自ら勉強し
てから質問するという方は少ないですね。
動物に興味をもっている医師の方の場合、獣医師広報板に登場されてい
る方は、レスを付けてくださる方にまわってしまうことが多いようです。
自分は医者だと名乗って質問を書き込んでくる方の場合は、大抵、ちょ
っと調べれば分かるようなことを勘違いされている方が多いです。
まっさらの素人とは申しませんが、専門家ではありません。

性腺ステロイドの分泌過剰であれば、これは「GnRH製剤」の摘要が
現時点ではもっとも採用される治療法と言えます。

では、何故、効果のみられない症例があるのかというと、「腺癌」とい
う病態があるからに他なりません。
「癌」であればすでに違う病気と考えていただいた方がよいと私は考え
ています。
「腺癌」になっている症例には、この製剤が効果が極めて発現しにくい
ことは、この製剤の紹介があった当初から報告がありましたよ。

人間の癌は、どうでしょうか? すべてオペが摘要されますか?
切除しか摘要がなかった時代であれば、メスを採れないということは、
すなわち「手後れ」意味していました。
しかし、今現在、オペ以外の適応がひじょうに増えて来ています。こ
れは患者のためにできるかぎり手術による侵襲を避けたいということ
なのです。いくら手術がうまくいっても患者が手術侵襲に耐えられな
ければ死んでしまうからです。
# 大きな怪我や打撲の後で手術がうまくいっても患者が亡くなる事
  は、よくあったのです。
  だから、今は一度にあちこちの手術をせずに患者の容態に応じて
  実施されるようになっているはずです。

フェレットの身体にとって、消化器をはじめとする内臓を身体の外へ
引っ張り出して、背中側に張り付いているいる副腎を摘出するという
行為は、かなりの侵襲を伴います。
健康体ではない病気で弱っている身体への摘要なのですから、これに
耐えることができない個体も当然存在します。

私達が、メスを採ろうとするときに一番気にするのは、患者自身の容
態です。獣医師が同じで手術方法も同じであっても、手術の結果に差
は生じます。これは引き算していけば、患者自身の容態の差であるこ
とは理解していただけると思います。
しかし、現実的には明暗を分けたものが、患者自身にあっても、飼い
主さんは、獣医師の責任とします。獣医師を責めます。
フェレットやその飼育条件のことを顧みていただける方は極めて稀と
いえます。
その点からは、「匿名さん」は凄いと思います。他者を思い遣る心を
もっておられますし、感情に流される事なく実に冷静に問題を把握し
ておられます。
匿名さん自身も辛い経験をされているのにもかかわらず、新たにオペ
にも臨まれるというのも ごりっぱです。主治医の先生が羨ましいで
すね。

腫瘍でも摘出ばかりが手術ではありません。放射線の照射による破壊、
ある簡単な酸の注入による破壊とか、血管の遮断というような侵襲の
少ない方法が使えるようになるとよいのですが…。

癌が切って治るのであれば、すべての癌は切除されるべきでしょう。
では、人間の医療において「癌」は克服されているでしょうか?
答えは「否」です。
フェレットも切れば治るものではありません。フェレット自身が性腺
ステロイドを必要としているから、かかる疾病が存在しているのです。
フェレットは電池無しで動く玩具ではありません。壊れた部品を取り
除けば、それでよしとはいきません。別の問題が控えているだけです。

早期の性腺除去に由来しているのであれば、フェレット自身もその飼
育者も、かなりの確率でこの疾病と向き合わなくてはなりません。
治る・治らないではなく、どう暮らして行くかとは考えられないでし
ょうか?
むろん、フェレットを診察している獣医師にしても病態をひとくくり
にしているむきも少なからず存在していることは否定できません。
しかし、それを見分けるのも飼い主の責務ですし、飼い主自身がもっ
と疾病を知らなくてはなりません。
個人的な経験を全てとして、それに拘泥していただけでは、フェレッ
トの医療が先へ進む事はありません。捨て鉢になっていて良い事はひ
とつもありません。
「GnRH製剤」は、効果あると私は考えています。良い結果に結び
つかないということは、使用すべき症例や病態を見誤っているのでは
ないでしょうか?
だったら、獣医師の尻を叩いても勉強させるようにしなくては。
どうせ駄目と投げてしまうのであれば、フェレットは飼育するのは考
えものです。
なぜなら、家庭で飼育できるように性腺を除去されているのですから、
その行為を辞めさせることが必要です。
ということであれば、環境を整えて、性腺を除去されていないフェレ
ットを飼育するか、フェレットの飼育をあきらめるかになってしまい
ます。


追伸:メラトニンについては、松果体から分泌される天然型ホルモン
   物質に相当しますが、作用としては日照時間と関連してGnR
   Hの放出量のコントロールに作用します。
   ということですから、日照時間の調整が必要ですね。冬期と同
   じように調整するということで、15時間の夜が必要と文献に
   記載されています。
   飼い主さんが宵っ張りであれば、その効果を期待する事に最初
   から無理があると考えられます。


前回も、同じような話の展開があって、同じ主旨の話を書いておいた
はずなのですが、どうして副腎の疾患というだけで同一のものとされ
てしまうのか不思議です。
病気が異なれば、治療法だって違って当たり前だと思います。なぜ、
同じ薬への文句が繰り返されるのでしょうか?
なぜ、過去に学ばないのか、なぜ、未来へ希望をつなげようとしない
のか不思議です。後ろ向きの発言が続くのは、ちょっと気になります。

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