獣医師広報板ニュース

動物の愛護掲示板過去発言No.6000-200206-25

白内障の手術
投稿日 2002年4月20日(土)18時28分 プロキオン

白内障の手術は犬と人間では難度が異なります。眼球グローブの形態に違いが
あるので、人間の白内障のように日帰り手術とはいきません。手術の前にも後
にも何日も治療が必要とされます。

ただ、白内障では失明しません。水晶体の光線透過率が低下して光を感じるこ
とができないだけなので、その手術といっても必ずしも「眼内レンズ」の装着
を必要としません。早い話が濁った水晶体を破壊吸引してしまえば、視力は回
復します。眼内レンズは単に視力の補正の意味でしかありません。
したがって、白内障の手術といえどもすべてに眼内レンズを入れる必要はなく
水晶体の除去だけという適応もあるわけです。
もし、本当に「白内障」であって、水晶体が除去されているのであれば、これ
は失明と言える状態では無いはずです。失明しているのであれば、別の要因が
あることになります。
そして、もう一つ言えば、手術の適応と判断されていたのであれば、眼電図に
よって視神経の異常の有無はチェックされていたと考えられます。視神経の異
常があって失明しているのであれば、これは手術することが無意味です。

手術適応と判断されて実施されていて、水晶体の除去ができているのなら、こ
の状態はレンズの装着ができないだけと受け取れます、そうであるのなら、失
明とは言えないはずですし、眼内の炎症が治れば、むしろ期待しても良いので
はないかと考えます。

白内障の手術は顕微鏡を覗きながらの非常に繊細な手術になります。術中は文
字どうり呼吸をとめて器具を操作しなくてはならない場面がしばしば続きます。
緊張から手が震えて水晶体周囲の虹彩に触れてしまって出血という場面もあり
ます、この場合もレンズは装着できませんが、術後管理次第で、視力の回復を
望むことも可能です。
獣医師が何も考えずにリラックスして器具の操作が行えるかと、患者のポジシ
ョニングと眼圧のコントロールが成功率を高めてくれます。

何も考えずにということは、余計な気負いのないことです。淡々と事務的に事
を処理できる能力とも言えます。そして、眼科用のメスに触れることも許され
ない私達下っ端獣医師には、眼圧のコントロールという大きな命題があります。
眼圧がコントロールできなければ、手術はとても困難なものになりますので。
私もエリザベスカラーを装着しているのにも関わらず、術後に目を掻いてしま
った犬がいて、本当に叱られたことがあります。叱られたというよりは、犬が
夢にまで出て来ているので、こんなことで手術を駄目にしないでくれと泣きつ
かれたというのが正確な言い方になります。

執刀された先生は、ミスという言い方を本当にされているのでしょうか?
水晶体の除去には専用のピンセットの上に載せてすーっと取り出す方法もありま
すが、超音波によって水晶体そのものを破壊しながら吸引してしまう方法もあ
ります。ですから、書き込み内容にあるような点は上手に出来なかったとは言
えますが、必ずしも失敗とはいえないからです。
出血や眼圧などの要因が存在していたということはないのでしょうか? もし、
そうであれば、ずいぶんと男らしい先生なのかもしれません。
執刀者も術式も器具もみんな同じ手術なのに、成功例だけでなく、失敗例も必
ずあります。何が違っているのでしょうか?
それは、患者自身が一番異なっているのです。避妊手術のような定型化された
手術でも失敗はあります。麻酔薬のケタミンに対してショックを起こされると
もう手術しないで返したくなります。痙攣がおさまってからメスを入れるべき
か否か本当に迷います。

手術を引き受けた以上は、患者ではなく自分の責任と頭を下げる行為は、りっ
ぱといえます。今の時点では当事者にはとてもそうは思えないであろうことは
想像できますが、第三者から見れば勇気のある行為なのです。
ごまかしようがないから頭を下げたと受けとめられるかもしれませんが、これ
はいくらでもごまかすことは可能です。例え、裁判になってもこの例であれば
獣医師が勝訴するはずです。
おそらく、御自身のプライドと白内障治療にかける思いがごまかしを許さなか
ったのでしょう。
繰り返しになりますが、書き込み内容からでは、私には失敗とは言い切れない
と思えるのです。(実際には、犬を診察してその状況を把握してみないと判断
できかねますが。)

一つの手術手技も、一朝一夕で習得できるものではありません。術式が確立さ
れるまではいくつもの症例が積み重ねられています。その分野のパイオニアと
言われる獣医師であれば、相当の歯ぎしりをする思いを重ねて来ているはずで
す。そして、その後に同じ手術を習得しようと研鑽をかさねている獣医師も増
えつつあります。そのすべてに100%の保証というのはありえないのです。
また、そのような経験こそが獣医師を成長させてくれるのです。人は成功例よ
りも失敗例にこそ学ぶものです。

今、私の発言を素直に受け取ることは無理かもしれませんが、私も件の獣医師
を特段弁護しようとも、飼い主さんを言いくるめようと考えているわけでもあ
ありません。
時が過ぎれば、理解していただけるのではないかと思います。

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