獣医師広報板ニュース

動物の愛護掲示板過去発言No.6000-200812-22

Re:Re:一飼い主にできること
投稿日 2008年4月7日(月)10時59分 投稿者 プロキオン

友人の動物病院では、俗に「鼻茸」と呼ばれる病気(鼻腔にできた扁平上皮癌)の犬がいたことがありました。癌が鼻の骨を溶かして顔に膿が噴出してきている症例でした。入院室の壁に設置してある空気清浄機の振動で隣の部屋の壁までゆれていましたが、その臭いは病院中にただよっていました。この犬の飼い主は、刑務所に収監されていて、犬のことなど知ったことかという状態だったそうです。犬を連れて来た女性も私の犬ではないからと入院費や治療に関わることは関知しようとしませんでした。そのわりには、面会にきて犬をみて泣いていくのだそうです。(泣きたいのは病院の方なのですが。) 治療費はよいから犬を引き取ってくれと言っても応じてくれませんでした。興信所をつかって親戚を調べて、誰か引き取り手はいないかと交渉したそうなのですが、誰一人、その犬を引き取るといった者はいませんでした。結局、その犬は半年後に病院でなくなりました。
この間の入院費や癌の治療費は、誰も払ってくれませんでした。その病院の先生は、なんどもなんども治療しない方が犬も自分も「楽」になれるのではないかという誘惑にかられたそうです。獣医師免許証という紙1枚の重さが彼を支え続けていたことになります。
第三者的に見たら、紙切れ1枚が「神様」の役割をしたと考えられるかもしれません、事実としてもそういう事だった思います。
けれども、私達獣医師は、どのように治療に手を尽くしたとしても、飼い主がとんできてくれて頭を撫ぜてあげた方を犬が喜ぶであろうということを知っています。それが、どのような飼い主であろうともです。犬は飼い主を信じて待っているのですよ。

昨日の投稿の6の川に投げ込まれた犬も、視力がかなり悪くなっていたので、暗いところへ連れて行こうとすると嫌がりました。それでも白いワンボックスカーを見ると、その車の後を追いかけようとするのです。その都度「前の飼い主のことは忘れろ」と言い聞かせましたが、彼女(雌犬でした)にはどうしても忘れることはできなかったようです。幼い子供がいると自分の体を盾にして守ろうとする仕草がありましたので、きっと、守りたい相手がいたのだと思います。

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