獣医師広報板ニュース

動物の愛護掲示板過去発言No.6000-202111-111

Re:白斑牛について
投稿日 2014年12月14日(日)13時00分 投稿者 プロキオン

添付URLの画像の牛ですが、私が目にした写真の牛よりもはるかに軽症ですね。このレベルであれば、一般的にはと畜場に出荷されてしまっているのではないかと考えられます。福島県における原発事故と結びつけて考えられるからこそ、取り上げられているという感があります。
と言っても、それを否定したり、馬鹿にしたりということではありません。すでに銅の欠乏症ということが判明しているのであれば、当時のことをもう少しお話してもよいのかもしれません。

35年前に私が写真でみた白化した和牛は、実は鳥取県の牛でして、家畜衛生試験場に相談されてきた県職員というのも鳥取県職員なのです。鳥取県と岡山県の境に人形峠がありますよね。当該牛は、そこの近辺の牛であって、鉱山からの精製をしている工場の煙が草地にかかっていたということのようでしたよ。
その県職員さんは、ウランの採掘と精製(精錬)の際に何か原因となるものが排出されているのではないかと推測していたわけになります。
銅の欠乏が白化現象を招くことは説明できても、給餌している資料が一般的なものであって、とく銅が欠乏していなければ、原因としては説明がつきません。代謝の際に銅と対になって体外へ排泄させてしまう物質が存在していて、その物質の過剰投与という考えに行き着くのは自然な流れでした。
私の方は、その対になる物質にかかわる資料を探していたということになります。そして、その文献・資料が食品研究についての学術雑誌に報告があるらしいということで、他の研究所を訪ねたということです。
その物質とは、亜鉛ではなく、コバルトのことになります。コバルトが過剰に存在しているために銅が不足してしまったのではないかと考えたのです。

かつて3月齢の子犬で17Kgという犬がいまして、自身の急激な体重増加に関節が悲鳴をあげて痛みを訴えるということがありました。その子犬というのは土佐犬でして、飼い主さんはその対策としてCaの粉末を与えていました。Caを過剰に与えても体外に排泄されるだけであって、そのときにいっしょにPも対になって代謝排泄されていくので、かえって骨が脆弱になってしまいかねないので、まず、急激な体重増加をおさえるべく給餌量をみなおしましょうという話しをさせていただいたのですが、それっきり来院はありませんでした。
このCaとPの代謝の件は、ブロイラー飼育においてはかなりあたりまえにされていた話なのですが、受け入れてはもらえませんでした。

私も銅(Cu)とコバルト(Co)との代謝の話の出所が何であったのかは記憶しておりませんが、その話の根拠になった文献が食品研究の学術雑誌だったのです。
鳥取県職員の方もCoには行き着いてはいたらしいのですが、家畜保健衛生所関係では根拠文献の入手ができなかったということなのです。
その方にしても、それならどうやってCoの過剰がCuの欠乏を招くのかを説明や証明することができかねたわけです。牛を購入して通常の餌を給餌しつつ、Coをどのような形(粉末? 水溶液? やはり煙か?)で、どのくらいの量をどのくらいの期間投与したらよいのか実験設定の目処も無く、相談したかった相手も国の先生ではなくはるか年下の研修生でした。仮に何年もかかって実証できたとしても、鉱業所を相手に補償を求めるという話しになってしまうとこれにも何年も時間を費やすことになってしまいかねず、県の中でも異論は出てくると考えられました。
そこで、自分の推論と同じ考えに至った若者(私のことです)が目の前にいることをもって、納得せざるをえなかったのです。牛の飼育者に示すことができるのは「銅の欠乏症」という事象の説明となる資料までですから、診断名も「銅欠乏症」にとどめたというのが結論です。
私にしても、このような白化現象が見られるのは、日本の中でも特別な地域であろうと考えてしまいましたから、その資料を大切なものとものとも考えずに県を辞めた際か転居のときにでも処分してしまったのだと思います。

今回、黒毛和種の白化現象に再度行き当たって、福島で発生したということは、感慨深いものがあります。
個人的には、やはりとは思いますが、35年前にあった壁が同じく立ちはだかっているように感じます。実証試験をしてくれるところがないでしょうし、今回の場合は、Coなんて言い出せば、むしろ否定する意見が嵐のごとく出てくるかもしれません。

肉畜として生まれてきた牛達も、「肉」になることなくただ生きていくだけなのですが、かわいそうな牛たちなので「肉」にするなんてとんでもないという人もいるでしょうし、「原発事故の生きた証言者」としても価値を見出す人もいるでしょうし、私のように距離をおいて眺めているだけの者もいます。
なんとなれば、35年前の件の牛にしてもおそらくは食肉として食べられてしまったと考えられますし、それで何か特別な事件・事故があったとも耳にしておりませんし。
「食とは何か」「食の安全性とは」という逸話の中において記憶に留めておくべきかなとは
思いますが。

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