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「彼女がその名を知らない鳥たち」
  沼田 まほかる



それでも恋と呼びたかった。
壊れかけた女、
人生をあきらめた男。
ダメな大人が繰りひろげる
100%ピュアな純愛サスペンス。(帯より)



無気力で、投げやりな生活を続けている十和子。
彼女は、8年前に別れた黒崎という男が忘れられない。
それなのに彼女は、洗練された黒崎とは、正反対の男、陣治と共に暮らしている。
当然のごとく、十和子は、陣治の全てが気に入らない。彼のヤニ臭い息、痰を吐く音、汚い食べ方、しつこい電話・・・。
それほどまでに嫌われているのを、知ってか知らずか、かいがいしく十和子の世話を焼く陣治。

本を読みながら、この二人の関係に、私は、虫酸が走る思いがしました。彼らの生活臭が、臭ってくるような不快感。
十和子のどうしようもなくだらしない生活も、十和子にぞっこんで、一生懸命な陣治にも、全く感情移入できず、どろどろした嫌な感覚しか残りません。

ただ、後半になってくると、そんな感覚に、ちょっとした新鮮な空気が吹き込むような気がする時があるのです。
本当の十和子、本当の陣治。それは、いったい何処にあるのか。
だんだんと、見え隠れし始める真実。
陣治に身体をもまれながら、その時だけ十和子は、真に、身も心も解放されていたのかもしれません。

そして、ラストを迎えて、陣治の愛の深さに気づき、心揺さぶられている自分がいるのでした。 (2007.04.28)




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