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「悼む人」
天童荒太



全国を放浪し、死者を悼む旅を続ける坂築静人。彼を巡り、夫を殺した女、 人間不信の雑誌記者、末期癌の母らのドラマが繰り広げられる (内容紹介より)


山本兼一さんの「利休にたずねよ」とともに、第140回直木賞を受賞した作品です。

死が充満する小説でした。
どこを見ても、死の影が、ちらつきます。

主人公、坂築静人は、突然、全てを捨てて、人の死を悼む旅に出る。
それは、宗教ではなく、ただ、亡くなった人のことを忘れずにいるためだけの旅。
そんなことは、不可能で、片手落ちで、自己満足に過ぎないと思うけれど、そうせずにはいられない彼を、誰も止めることは出来ないし、咎めることも出来ないでしょう。

でも、多くの人たちに、不審がられ、非難される彼の行動は、生きている人ではなく、死んだ人だけに向けられていて、悲しいです。彼が、このループから抜け出せる時はあるのでしょうか。

彼に見えているのは、彼の前にある死屍累々だけ。
彼によって救われる人も、もちろんいるとは思いますが、あまりにも後ろ向きすぎる生き方に、気分が重くなりました。

むしろ、別れ際に倖世が言った「家族のことで、手遅れの男になっちゃだめよ」という言葉に、共感します。
大切なのは、死んだ人を思うことよりも、生きている人に何が出来るかです。
でも、彼を否定はしませんけどね。 (2009,03,27)