「苦役列車」
西村賢太
友もなく、女もなく、一杯のコップ酒を心の慰めに、その日暮らしの港湾労働で生計を立てている十九歳の貫太。或る日彼の生活に変化が訪れたが…。こんな生活とも云えぬような生活は、一体いつまで続くのであろうか―。昭和の終わりの青春に渦巻く孤独と窮乏、労働と因業を渾身の筆で描き尽くす表題作と「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を収録。第144回芥川賞受賞。
(「BOOK」データベースより)
144回芥川賞受賞作です。
先日読んだ「きことわ」との同時受賞でした。
でも、作風は、正反対。
昭和の底辺に沈んだ男の物語です。
何も予備知識なしに読み始めましたが、私小説なのだそうです。
収録されているのは、受賞作の表題作と、もう一遍「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」。
「苦役列車」は、題名通り、苦しい人生の流れの一端を描いています。
何しろ壮絶でした。
11歳で両親の離婚、中学を卒業してからは、ひとり暮らしをするも、就職先がなく、日雇い労働で、糊口をしのぐ。
小心者なのに、人の目を気にして、孤高を気取り、激高しやすく、そして自堕落。
こんな、どうしようもない男に、思いがけなく、まともな?友人が出来て、良かったと思いつつも、このまま済むはずがないという、恐れも、感じながら、読み進めました。
そして、やはりというか、なんというか、友人関係を、台無しにしてしまう主人公。
無念さとともに、彼のどうしようもない性格や言動に、苛つきました。
きっと自虐的な所も多々あるのでしょうけれど、これから先、どうなってゆくのか、
この時点では、19歳の主人公の将来が非常に心配になってしまいます。
一転、「落ちぶれて・・・」の方は、年を重ねて、作家になってからの話。
若さ故の無鉄砲さが影を潜めて、
年を取ってゆく事とか、体の不調による不安とかが感じられて、
少々憐れさを感じます。
でも、彼のやることは、相変わらず、無茶苦茶で・・・(^^;。
こんな作家さんの担当になったら、編集者も大変だろうなと、思ったり(^^;。
とにかく、とても泥臭い小説で、
今風ではないですが、”文学”の匂いを感じます。
それは、著者のこだわりが大きく関わっているのかもしれません。
wikiで調べると、彼の人生は、この本に書かれたとおりだったので、またびっくり。
とても正直な方だなぁと思った次第です。
(2012,01,25)
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