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祝婚歌
皆川博子


巨大な虚無を、覗き見よ。
登場人物は、女も男も子供も、正気を逸して孤独に生きる。
狂気のみが、死という空無に抗えることを知っているから。
この逆説を説く皆川博子の裡には、茫漠たる荒野が広がっているのだろう。 
桐野夏生推薦文より



「皆川博子コレクション3」に収録された「祝婚歌」と、「冬の雅歌」を読みました。


祝婚歌

子どもの頃の、楽しい思い出と、ショッキングな出来事。
これらは、いつまでも忘れることなく、その人の人生について回るものなのかもしれません。
この作品の主人公も、子どもの頃の体験を大人になっても引きずっていて、とうとう、その因縁から逃れ出ることなく、その中に埋もれ、そして、散っていくしかなかったのでしょう。
愛した妻の白いドレス・・・焼け焦げた・・・それは、鬼気迫る狂気の象徴でした。
この作品もまた、時代の古さを感じさせない短編です。




冬の雅歌

傷害事件を起こして精神病院に入院した荘川美於と、彼女の真実を知ろうとする、病院の職員、江馬貢の話です。
精神病院を舞台としているので、まず思い出したのは、夢野久作の「ドグラ・マグラ」です。
あの本は、読むのが大変で、内容も、未だによく分からないのですが(^_^;、確かに、読んでいるうちに、精神を病んだ人の気持ちを疑似体験出来たような気もしたものでした(^_^)。
一方、皆川さんのこの作品は、彼らの”姿”は、よく見えるような気がしました。
入院した女性の過去と、彼女が事件を起こすまでの経緯がミステリアスに描かれるとともに、多様な人間の心と体のアンバランスな世界が広がっています。
うむむ、人間とは、ほんと、複雑な生き物ですなぁ。




このコレクション3には、他に5編の作品が収録されています。

「魔術師の指」・・学生時代の仲間である手品師と夫婦。彼らの上に、時間は残酷に流れゆく・・・。
「海の耀き」・・妻の人形作りの師匠である男の船でのクルージングに出かけた3人の微妙な駆け引き、そして、事故が起きた。
「黒と白の遺書」・・あこがれの写真家の助手になった宏だったが、スランプに陥った写真家の無謀で退廃的な仕事ぶりに嫌気がさして・・・。
「もうひとつの庭」・・一人の人間が、二人に分離しているような話です。難解すぎて分からん(^_^;。
「巫の館」・・雰囲気のある作品でした。ある俳優の卵を巡って男女が駆け引きをする話ですが、櫻子の妖しい魅力に引きつけられました。





(2015,03,04)