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国宝
吉田修一

1964年元旦、
長崎は老舗料亭「花丸」――侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、
この国の宝となる役者は生まれた。
男の名は、立花喜久雄。
任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、
喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。
舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。
日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。
血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。
舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、
数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか?
朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。 (説明より)


圧倒されました。
歌舞伎界に生きる人たちの力強さと、困難と、その生き様に。

歌舞伎については全く無知で、たまに芸能ニュースで流れる連獅子のシーンとかしか知りませんでしたが、この作品を読んで、まるで観客として歌舞伎の舞台を見ているような感覚がしました。

ヤクザの息子として育った男の子が歌舞伎の世界でのし上がってゆく物語です。
そこには、自分の能力との戦いや、他の歌舞伎役者たちとの競争や軋轢があり、また、世間の評判も時には厳しく、時には絶賛されと、自分を強く持っていないと、流されてしまいそうな世界でした。

それにしても、芸に生きるということは、なんと大変なのでしょう。
芸は出来て当たり前、それを超えてゆくのが名歌舞伎役者。
その頂上は、どこまでも先の見えない世界。

ただ、冒頭の新年会でのヤクザの抗争のシーンで、ん?とよくわからない箇所が出てきて、そこで、少しつまずきました。
そこは何度読み直しても人間関係が理解出来ず、しばらく停滞したのですが、先を読めば分かってくるのかと諦めて、結局その疑問はそのままに読み進みました。でも、その回答は、最終盤に、ほんのわずか描かれているだけでした。

話の流れは、数年単位で、先を急ぐように進んでゆき、面白くてどんどん読み進みました。
また、時々挟まれる説明文は講釈調で、最初面食らいましたが、そのうちに慣れ、それはそれで趣が感じられてよかったです。

近々、吉沢亮主演で映画化されるらしいですが、これを演じるのは大変だろうなと、期待と心配でいっぱいです。 (2024,05,10)