テーマ:「子供が変わる学校飼育動物」
内容
期日:平成17年1月30日(日)10:45〜16:30
場所:お茶の水女子大学共通講義棟2号館201号室
1.研究発表会
@小檜山 祐介・花園 誠(帝京科学大学 アニマルサイエンス学科) 発表者 花園 美樹
「ハムスターを用いた小学校訪問活動のプログラム開発とその実践」
小学校第2学年の児童を対象に、ハムスターなどを用いて、全3回の小学校訪問活動
を実践した。
2年生3クラスに対し、スタッフ15名で対応、1回目はハムスターとマウスとのふれあい、
2回目は観察、3回目はハムスターのお家作りを行った。ふれあいの前、後で書かれた児童の自由画が、 ふれあい後、とても色彩豊かでバラエティーに富ん
だ絵に変わった。
A久富 一郎(宮崎県都城食肉衛生検査所)
「県職員自主研究グループ活動による取り組み」
宮崎県では、平成3年より知事部局の職員を対象に自主研究を奨励しており、いくつか
の有志がグループを
作り、様々な行政課題について、自主研究を行っている。
当グループは平成12年より自主研究をはじめ、ドメスティックバイオレンス(DV)と動物虐待に取り組み、そ
の共通項目とされる、「暴力連鎖」の防止のためには、幼年期における動物を用いた教育プログラムが重要
ではないかという判断のもとに、小学校における動物愛護プログラムを実施した。その中で動物の正しい接し
方を学び、実際に体験し、人と協調作業を行いながら、「動物愛護」精神を体得できたようだ。また6小学校の
PTA合同の講演に中川先生を招き、教師や父母に対しても、学校の動物の重要性を確認してもらう事ができ
た。今後DV予防プログラムの評価を確立する為には、児童への継続調査を実施し、プログラムの評価と改善
も必要である。
B和田 茂雄(社団法人 京都市獣医師会 理事・学校飼育動物対策委員会)
「鳥インフルエンザ発生における京都市学校飼育動物への対応について」
京都市獣医師会では、平成11年より学校飼育動物対策委員会を立ち上げ、教育委員
会と共に、学校に
対して授業支援や飼育への助言をしてきた。平成15年、京都で鳥インフルエンザが発生する3ヶ月前に教育功
労者表彰を受けていた。普段より日獣、日小獣、全国学校飼育動物研究会からの文章やパンフは、市獣→市
の教育委員会→学校に伝達がスムーズに行われていた。そのおり、平成16年2月20日に、京都府の養鶏農家
の鶏の大量死、2月27日にインフルエンザ陽性を確認した。半径30K以内の鶏と卵の移動自粛要請が出た。
その区域に当たる希望校から優先的に、鶏の健康診断を実施した。うち27校園で、主に口腔スワブを採取し簡
易検査を行い、全羽陰性と結果が出た。
4月27日、京都市長、教育長より鳥インフルエンザ防疫に対し市獣に感謝状が授与された。
C加藤 智子・岡田 麻美子(横浜市三ツ沢幼稚園教諭)
「幼稚園の園庭飼育から身近な飼育へ」
獣医師の提案を受け、ウサギを園庭から年長のクラスの室内飼育に変えることにし
た。職員会議では、
衛生面やアレルギーを持つ子供に対して大丈夫かという不安が出てきたが、中川先生から「最近は潔癖症の方
が心配だから」と手洗いなどの指導をうけ、問題ないと判断し、飼育が始まった。
初めはウサギの世話の時、うんちが汚いとか、臭いとか言っていた子供たちも、1ヶ月くらいすると「うさぎが臭く
なっちゃうから、はやく替えてあげないとかわいそうだよ」と、積極的に掃除したり、ウサギの気持ちになって考え
てあげられるように変化していった。
D石島 敦子(佐野市立船津川小学校教諭)
「命の大切さ〜その思いを共有できる学校飼育活動〜」
平成11年栃木県教育委員会から「地域の獣医師との連携に関する開かれた学校づくり
の推進校」に指定を受け
た。平成12年より獣医師のサポートを受けながら、動物飼育に取り組んでいる。小規模校のため飼育は全職員
、全生徒で行っている。
11月になり寒くなったので、ウサギの寝床を作る事になり、初めはダンボールで作ってみたが、寒さにも強い木で
作りたいと言うことで、のこぎりや金槌を使って寝床を完成させた。
他県で鳥インフルエンザ発生の頃、一時期、子供たちを飼育からはずしたところ、「ふーん、先生はあんなに鶏を
かわいがるようにと言ってたのに、やっぱり鶏より人間をとるんだね」と云われてとても悲しかった。が、獣医師会
の指導のもと、長靴を履いたり、マスクをつけたりして、すぐに飼育を再開できた。
子供たち自身は、普段からとても、学校の動物たちに愛着を持っており、鳥インフルエンザ騒ぎの時も、自分たち
が鳥インフルエンザにかかることを恐れるより、鳥自身を鳥インフルエンザから守る事に一生懸命な様子だった。
なお、鶏の巣箱つくりは、チャボたちのためにという目的意識がはっきりしているため
か、子供達は道具を上手に
つかうようになり、2回目に作ったときは、前回の半分の時間できれいに完成させることができた。
動物飼育に関わる事で、サポートする獣医師や教師と共に、喜びや悲しみ、悩み事を共有することができた。また、
授業の中で、生き物に関わる事で、授業に心が生まれた。
飼育を通じて動物たちを可愛がる事で、子供たちの心に蒔かれた種は、いつか芽を出し、花を咲かせてくれるもの
と信じる。
宮下英雄会長挨拶
2.シンポジウム
基調講演:中川 美穂子(お茶に水女子大子ども発達教育研究センター客員研究員
全国学校飼育動物獣医師連絡協議会主宰)
「園・小学校での頭脳を育てる環境づくり」
子供にとって動物は、自分と他人(他の命)を気づかせる仲間である。
欧米では9割の家庭が、子供の為にペットを、親が与えると言われている。
人が「人間」に育つためには、保護者の愛情を背に、安心して周りを見回し、人や動物などを含めた様々な事象と
関わっていける環境が必要である。
子供のアンケートによると、友達がいじめられていたら「助ける」という積極的な答えは、ペット(小型ほ乳類と愛玩)
を飼っている子供たちに多かった。動物飼育は生命尊重、情愛、共感、洞察力を育み、マザーリングの効果も期待
できる。また、ペットを可愛がって育てた子供は、大人になって、わが子を持った時に、ゆったり上手に子育てしてい
るように思える。
学校で動物を飼う場合は、人の土台を培うためのペット飼育でいいのではないかと考える。
飼育環境を整え、子供たちにも扱いが簡単な動物種を選ぶ事も重要である。簡単に世話できる動物を少しだけ、
子供の身近に置く。身近に情の通う動物を、継続して飼うのが良い。そして可愛いと思うように指導していく必要が
ある。
動物をかわいいと思って世話をすることで、いろいろな効果が有効になるからである。
獣医師は、動物の飼育指導、治療もできるが、同時に公衆衛生も職域であるので、その点でも良い環境を整える
ように助言ができる。
講演
佐藤 暁子(新宿区立西戸山幼稚園 園長) 東京都国公立幼稚園協会副会長
「小動物の飼育を通じて豊かな心を育む」
本園の子供達は、ほとんどが高層住宅から通園しており、家庭で小動物や生き物を飼育す
る事が困難である。そ
のため園では、家では体験できない小動物の飼育を通じて、豊かな心を育てていきたいと考えている。入園当初は、生きているウサギとぬいぐるみのウサギの区
別がつかずにいた子供も、だんだんに慣れていって、素敵な仲間になる事ができた。
35年間、子供たちと関わってきて、生き物との触れ合いが、どれだけ子供の心に優しさと潤いをもたらしてくれているかを感じている。生命の誕生と別れを
経験して、命の大切さや命の終わりの悲しさを体験できた。人も生き物も共に生きている、お腹もすくし、悲しいのも、痛いのも同じとわかった。世話をしなが
ら、観察も出来た。生き物はきれいで清潔なところが好きだと解って、積極的に世話ができるようになった。
幼児期の色々な体験が、子供たちの心を耕し、瑞々しい感性と豊かな心が育っていく事を願って、努力を続けて行きたい。
竜田 孝則(鎌倉市立大船小学校校長)
「休日の飼育:保護者の飼育応援団の構築と成果について」
ある日、卒業生の保護者が校長室にやってきて、「先生、今この学校には動物がどのく
らいいるか知っていますか?」という質問をされた。子供が以前、この学校で飼育係をしていた頃、脊髄損傷で動けなくなったウサギと、片目をえぐられて瀕死
の状態になったウサギを連れてかえって看護したが、相次いで苦しみながら死んでいったと言う事だった。
飼育舎の状況が今でも改善していないようなので、早急に改善して欲しいと言う事だった。その時、それに対して答える事ができなかった。飼育舎は一見、ウサ
ギと烏骨鶏が広々としたところで、仲良くえさを食べているようにしか見えなかったのだ。
夏休み前、保護者の方から、飼育を手伝いたいという申し出があった、不審者の出没が報告されていた時期
だったこともあり、休み中の飼育を保護者にも手伝っ
てもらう事となった。
しかい夏休み明け、飼育にかかわった保護者から、公開質問状がよせられ、飼育上の問題点や頭数が多すぎる点、地中に巣穴があって不衛生ではないか、ウサギ
が次々に死んで、これで生命尊重が教えられるかなど指摘された。
学校が困っていたところ、保護者から相談を受けた中川先生が、助け舟を出してくれ、子ウサギの里親探しや去勢手術の手配、飼育小屋の改善の指導などを行っ
てくれた。
その後、長い休みを乗り切るために、PTAの運営委員会が飼育応援団を結成してくれた。子供とのコミュニケーションを大切にしたい、動物を飼いたいのに飼
えないという保護者の理解を得、40世帯もの登録があり、休みの日の飼育も乗り切ることが出来た。しかし生徒の卒業と共に飼育応援団は消滅するかと心配さ
れたが、創立メンバーが次の人材をスカウトし、継続していく事ができた。飼育応援団に刺激され、他の支援組織も誕生し、保護者や地域の方や、教員志願の大
学生が学校に入ってくるようになった。飼育応援団の誕生が、閉ざされていた学校の扉を開き、その扉が開いた事で、新たな支援組織が誕生し、また新たな人材
を呼び込んでくれた。
講評
・小田 豊(国立教育政策研究所次長)
飼うならば良い状態で飼うべきなので、(学校で動物を飼うべき)だとは言えない、動物も迷惑するだろう
・無藤 隆(白梅学園短期大学学長
/お茶の水女子大学客員教授)http://www.kodomo.ocha.ac.jp/~mutou-hp/
学校の動物がひどい状態にあること、子どもがそれにショックをうけていること、そ
れらに学校は気づいて
いないこと、などにショックを受けている。
また現在、清潔ということから、水遊び、どろんこ遊び、そして糞尿などを汚いとして排除する傾向がある。そのうち汚れが無い、臭いがないペッ
トが求められ、ペットの飼い方も水族館化してきている。その内、ロボットとどこが違うか、などと言われるだろう。そのような考えが行き着くところは「汚い
ものを排除する」社会になるが、その延長上を考える必要がある。
実は 子どもと老人と障害のある方達について、似ている存在という考えがある。社会人としてルールを
守れない、自分で身をきれいにできない汚い人達ととられがちである。
現在、社会は「汚い」ことは犯罪よりひどいこと、ととらえる傾向がある。糞尿などや汚れのため「動物」が社会から排除されようとしているが、その延長上の
社会をよく考えなければならない。
また、「飼育に関して、学校には基本的な誤解がある」
●飼い方を指導せずにこどもたちに発見させることに意義があると思っているが、飼い方をこどもたちが発見することはない。適切な言葉かけや指導が必要。
●自然に近い状態で飼うとして土床で飼ったり、繁殖管理をしないでいるが、学校の動物は飼育動物であって自然な環境にいるのではない。管理が必要。
●動物が総じて命を教えると「一般の動物」を考えているが、特定の動物との継続する関係から子どもは学んでいる。動物イコール命の教育ではなく、飼い
方、生態系などを理解させるやり方で、個別的な愛情のある関係を作る事が必要だ。
●動物に限らず学校に見られる傾向は、教育の専門家だから支援を受けるのは恥だと思って、弱さをみせないように苦心するが、子どもの教育は 学校、保護
者、地域、地域の専門家なとど、連携してはじめてなりたつ。
と、教育施設は早く獣医師など専門家の支援を得て、楽になるようにと話されました。
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参加者は270名
内獣医師74(開業62 家畜2 保健所8 動物園1 他でした
また新聞社(共同通信社、日本教育新聞、教育新聞)が入り、日本教育新聞が2月11日の記事に写
真入りで
掲載してくださいました。
日本獣医師会の五十嵐会長も参加されました。また唐木英明 当研究会顧問 日本学術会議会員 日本獣医師会学校飼育動物委員長が 「全国の9割の小学校に
飼
育舎があり動物がいるとのことです。日本獣医師会は学校の動物飼育を支援致します。」とご挨拶をなさいました。
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学校飼育動物研究会HP