獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201104-23

Re:逆性石鹸について教えてください
投稿日 2011年4月30日(土)12時01分 投稿者 プロキオン

まず、商品名の記載がある点が気になります。この製品は、消毒薬であって、動物を殺すための薬剤としての認可は申請されておりません。
かかる状態をもって、その製品による薬殺の適否を教えてくれと言われても、普通であれば意見を控えるのが獣医師としての立場ではないかと思います。メーカーにとってみれば、推奨も否定も議論されることそのものが迷惑になるではないかと考えられます。
もう、1点が、この掲示板に参加しているのは、街の診療獣医師がほとんであって、診療対象は犬や猫等の小動物です。家畜の安楽死(薬殺)について経験を有している者がいるかどうかという点ですね。獣医師であれば、みな同じだということではありません。


ぺんぺんさんが、面白半分ではなく、真面目な質問としてであれば、

>窒息死でもがき苦しむ、とても安楽死ではないと。たとえば
http://web.me.com/taro91/fmd/report.html

こちらの見解は、私個人から見ると、現場を見たことが無いのかというくらい観念的に感じます。(実際問題としても、普通の人が立ち会う機会そのものがないはずですけれども)
牛や豚が相手となりますと、まず施術者や保定者に危険が及ばないことが第一条件になると思います。牛であれば少なくとも500キロとか600キロはありますから、暴れでもされたらお話になりません。私は、豚や乳牛に病院送りにされて獣医師を知っていますし、肉牛が相手となれば、さらに用心深さが必要です。肉牛に殺された飼い主さんさえ私の知っている範囲でいますよ。
窒息でもがき苦しむようであれば、使用薬剤としては、その時点で不適と言えます。

ぺんぺんさんは、と畜場における処置の仕方を見学されたことはありますか?
食肉にされるわけですから、薬殺という処置はできません。だから、牛であれば頭蓋骨の一箇所をドンと突いて破壊して一気に落として放血します。豚であれば、電気で失神させて頚部の動静脈から放血します。どちらの方法でも、痙攣を伴うことがあり、それに巻き込まれないようにしないとなりません。
一方、記載薬剤を頚静脈から注入した場合ですと、投薬量にもよりますが、全量投薬が終わらないうちに意識が無くなって四肢を突っ張って倒れてきます。非常に即効性があって、倒れる牛の下敷きにならないようにしなくてはならないくらいです。

これが、吸入となると、話が違ってきて、とても苦しい思いをします。以前、沖縄で牛体消毒で噴霧したところ、死亡する牛が出ました。私も、病性鑑定の仕事をしていたことがあるので、解剖室の消毒で、この消毒薬を室内で噴霧して消毒するのですが、5〜10分噴霧した後に噴霧器のスイッチを切るために室内に入るときに、呼吸をしないようにして突入するのですが、それでもとても苦しい思いをすることになります。ちょうど、上記のURLで言いたいような感じの状態ですね。
肺の血管から吸収したりとか、頚静脈から漏らしたりすれば、そういうことはあるかと思いますが、正直な話、直接頚静脈に投薬されたのであれば、もがき苦しむ時間はないだろうと思いますね。


>また一方であまり苦しむ様子がないようだ、という情報も。たとえば
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/06308/a15.pdf

こちらのお話であっても、私は「はい、はい、そうですね。」という気にはなれません。
最初にあげたように、表記の製品はあくまでも消毒薬です。認可以外の用途を広く認めるわけにはいかないと思うのです。

>現実はどうなのでしょうか?使用されたことのある、または立ち会ったことのある
獣医師さんのご意見を伺いたいです。

宮崎県の事例がありますから、使用経験のある獣医師は各県におられる筈ですが、誰かに話したいという経験ではないと思いますから、みなさん、口は重くなるのではないでしょうか。だから、私の知っている話をしました。

>また麻酔の大量投与で行う安楽死が使えない理由はコスト以外に何かあるのでしょうか?

経済動物が対象である以上は、コストは決しておろそかにできない問題です。と、同時に、誰しも進んでやりたい仕事ではありません。施術者や保定者の安全が確保できないとなりませんし、即効性と確実性も求められます
麻酔薬を使用するとなると、その製品は、おそらく一般的な街の小動物診療医のところでは使用していない製品になるのではないかと想像しています。牛や豚相手になりますと、投薬量はかなりの量にならざるを得ません。人間の力で牛や豚を動かないように保定しておくというのにも技術や体力は必要です、時間がかかるという事自体が事故につながりかねません。
また、後から息を吹き返されたりでもして、再度処置をするのは、施術者として精神的にとても耐えられるものではありません。
コスト以上に、携わる者にとっての肉体的・精神的な負担を考慮してくれてもよいのではないかと思います。いくらコストがかからなくても即効性・確実性がないものなら、選択するわけにはいかないはずです。

このことについては、渡辺眞子さんの「小さな命を救う人々」という本の中にも、麻酔薬による処置を実施させらる側の人間の訴えが記載されています。
麻酔薬を使用すれば「安楽死」ということでもありません。呼吸や心臓を停止させることは同じです、窒息死というのであれば、麻酔薬でも窒息死に至っていることは同じです。殺される側にとっては、同じことでしょう。違うのは見ている者にとっての受け取り方の差だけです。
であれば、とくに数をこなさなくてはならないというケースであれば、施術者にとっての、安全が確保でき、精神的肉体的な配慮が求められてもよいはずではないかと思います。

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