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「天人五衰」
三島由紀夫

妻を亡くした老残の本多繁邦は清水港に赴き、そこで帝国信号通信社につとめる十六歳の少年安永透に出会った。彼の左の脇腹には三つの黒子が昴の星のようにはっきりと象嵌されていた。転生の神秘にとりつかれた本多は、さっそく月光妃の転生を賭けて彼を養子に迎え、教育を始める・・・。存在の無残な虚構の前で逆転する<輪廻>の本質を劇的に描くライフワーク『豊饒の海』完結編。 (裏表紙より)



いよいよ三島由紀夫の遺作である「豊饒の海」の最終章です。

今回は、体調を崩して寝込んでいたこともあり、いつもはひどい遅読の私が、前作を読んでから、驚異のスピードで、読み終えることが出来ました(^^)。
それは、内容的に難解だった前作に比べて、今回はとても読みやすく、そして、<結>としての期待も高まり、読むのを止めることが出来ないぐらい面白い内容だったからです。

76歳になった本多。
すでに妻も亡くし、体をいたわりながらも、自由気ままに、有閑マダムの慶子と好きなことだけを楽しむ毎日。そんな彼の前に、第3の転生の気配が現れて・・・。

この章を読むと、三島由紀夫という人は、やはり、すごいなぁと思いますねぇ。

4部作にもなる長い作品だったにもかかわらず、最初から最後まで一つの線がピシッと貫かれています。

そして、この題名。
天人五衰・・・・この本の題名としてしか知らなかったこの言葉。
本の内容と呼応して、なんとももの悲しく、この様子が描かれているという絵を見たくなります。

それにしても、本多にしても、透にしても、頭が切れるということは、なんと、醜く、恐ろしいことでしょう。
その才能を違う方向に向けてさえいれば・・・。
あぁ、凡人に生まれてよかったわ。

そして、このラスト。
思いもかけない、劇的なラストでした。

この最終章を読み終えると、再び、第1章の「春の雪」を読みたくなってしまいます。
再読すると、また、違う感覚で読めることでしょうね。 (2011,07,05)



『豊饒の海』
 「春の雪」
 「奔馬」
 「暁の寺」
 「天人五衰」